神田の三省堂本店が建て替えのために現店舗を閉店して仮店舗に移る。
現店舗は5月8日で閉店して、現店舗から靖国通りを300m(多分)ほど東の小川町で、6月1日から仮店舗を営業する。
現店舗のビルは、それ以前の建物を建て替えて1981年に竣工したもので、40数年経つが老朽化で建て替えるとはサイクルが早いような気もする。
ビルの建て替えによって、地下のドイツ料理店「放心亭」も閉店のようで、特に移転とか仮店舗の情報はない。
三省堂に行く度に、放心亭で食事をと思い続けていたが、未だに行っていない。
さすがにこの機会に行っておこうと思い立つ。
神保町の駅から三省堂を目指して歩いて行くと、ネット全盛のこの時代に書店が連なるこの街の姿に安心する。
【古書店とはいえこんなに書店が連なる街は希少になった】
ここ十数年、書店に寄る機会も本を買う機会もめっきり減った。
知的好奇心を満たすための文化教養費というものが格段に減っている。
若い頃のように、食事を抜いてでも本を買って読むなんてことをしなくなった。
必要な情報がある程度ネットで手に入るからだ。
音楽だってYouTubeで済ませてしまうことが多くなった。
我々の頃とは違って、今の若い人にとってはお金を掛けずに情報が手に入ることは当たり前になってしまった。
それがいいことなのか悪いことなのか、一概には言えないだろう。
しかし、文化が衰退していくのではないかという懸念もある。
情報や文化の価値が下がり、関連する仕事に携わっている人の職もどんどん失われていくのではないか?
でも、この街の姿には一縷の希望が残っているようにも見える。
現代のネット社会の中で、神田神保町はパンドラの匣の底に残っていた最後の希望なのかもしれない。
なんて、柄にもない感傷に浸りながら三省堂に近づくと、ビルの壁面にしおり型の巨大な広告が出ている。
広告には
いったん、しおりを挟みます。
と書いてある。
この巨大しおりが話題になっていて、多くの人が道路の反対側から写真を撮っている。
【三省堂の“しおり”】
一時休業をしおりを挟むという言い回しが書店らしい。
まあ、博報堂のコピーライターの作品らしいけど。
地下の放心亭は5時からの営業なのでまだ間がある。
三省堂に入ると、入口近くの雑貨屋は商品が半分以下に減っている。
閉店に向けて商品補充はしないから当然だ。
【三省堂と放心亭】
書店内では著名人選書フェアとか、本みくじなんてやっている。
本みくじは何が出るかはわからない。本みくじを引いてもその番号の本はカバーに包まれているから、中身は本みくじに書かれた内容で推測するしかないようだ。
店内で時間潰しも飽きてきたので近くの喫茶店に待避する。
ギャラリー喫茶古瀬戸という店で、店内には絵が飾ってあり、クラシック音楽が流れている。
神田神保町という土地柄には合っているが、土日は混んでいる。
店を出る時は数組待っていた。
放心亭の開店前に妻と待ち合わせていたら、5時前に開店してしまったので、店に入ると既に席は埋まっていた。
仕方ないから待っていると、すぐに奥の席を案内される。
【開店早々満席】
【奥の席から店内を見る】
初めて入る店内は煉瓦や木目調で雰囲気は落ち着いている。
テーブルはよく見るとかなり年季が入っていて色が剥げている。
1981年の開店から使っているのだろう。
早速、生ビールの大ジョッキを2つ頼む。
せっかくだから大きいのを飲みたい。
【生ビールはキリンブラウマイスター】
つまみはポテトフライのり塩と、牛サーロインステーキ(パセリとレモンのバターソース)、温製ソーセージの盛り合わせを注文。
【ソーセージの盛り合わせ】
【サーロインステーキ】
初めのうちは快調にビールも食事も入っていったが、だんだん腹が苦しくなる。
それでも、せっかくだから黒ビールも飲みたい。
調子に乗って黒ビールも大ジョッキにしたので料理の追加は諦める。
会計を済ませると待ち客はいない。
もうちょっとゆっくりしても良かったかなとも思ったが、1時間近く楽しんだんだからいいだろう。
閉店を聞きつけて慌ててやって来るから、こんなことになると自嘲する。
食後、また三省堂の店内を徘徊して書店の空気を楽しむ。
中学生の頃から来ていた書店の姿を目に焼き付けておきたい。
しかし、2階の喫茶店も行ったことなかったなと今さらながら思う。
裏通りにある喫茶店にはよく行ってたけど、こんなとこに喫茶店があること自体知らなかった。
なるほど、本を探してひと息つくには、店内に喫茶店がある方が便利だ。
この喫茶店も「しおり」の役目を果たしているんだなと気がつく。